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雪の降る空の下

 

 その日、田辺は従業員の休憩室でノートを広げていた。

 休憩室は倉庫の三階にあった。広いスペースに長机と椅子がいくつか並んでいる。部屋の隅の方には、ジュース、アイス、軽いお菓子などの自動販売機が備え付けられていた。

 田辺が休憩室に腰を据えてからしばらくして、パートのおばさん達の輪から一人が離れ、田辺の側にやって来た。

「田辺君、忙しそうなところ悪いんだけどちょっといいかしら?相談したい事があるのよ」

 顔を上げると、最近倉庫で世間話をしたおばさんだった。

「あ、いいですよ。何ですか、相談って?」

 おばさんが、田辺の向かいの椅子を引いて腰を下ろした。

「あのね。田辺君のお友達で、恋人募集中のお嬢さん、いないかしら?」

「え、なんですか、それ?」

 怪訝な顔をしている田辺に、おばさんが説明を始めた。

「実は私、時々ご近所の縁談をまとめたりしてるのよ。それで今、四〇代の男性の縁談をお世話してるんだけど、なかなかいい人が見つからないの。その方、すごく羽振りのいい会社の重役をなさってて、身元のしっかりした人なんだけどね」

 田辺は、怪訝な顔のまま口を挟んだ。

「そういう方なら、すぐにお相手が見つかるんじゃないんですか?」

「それがそうでもないのよ。実はその人、離婚暦があるのよね。それも二回も。そのくせに『二〇代の子じゃなきゃ嫌だ』とか『可愛い子じゃなきゃ駄目だ』とか贅沢……。いえ、条件を出して来るのよ」

「はあ、それは図々しい……。いや、妥協のない方ですね」

「ええ。それで、お見合い写真を何枚も持ってったんだけど、みんな駄目だって言うのよね」

「……なるほどねぇ」

 一応頷いて見せた田辺は、少し考えてから思い切ったように言葉を続けた。

「あの、そういう人には世話するの止めた方がいいんじゃないですか?」

 田辺の言葉に、おばさんが困りはてたような表情を浮かべた。

「私としてはそうしたいんだけど、ご近所さんだから無下に断わるわけにもいかないのよ。それで、とにかくお義理でもいいから誰か紹介して、その女の子に断わってもらえば話が早いって思ったの。ねえ、田辺君の友達に協力してくれるような子、いないかしら?」

 田辺は、申し訳なさそうに首を振った。

「いや、ちょっと心辺りないですね。みんなもう、結婚したり恋人がいたりしますから」

 おばさんが深いため息をついた。

「そう、分かったわ。ごめんね、勉強の邪魔して」

「いえ、俺の方こそ、お役に立てなくて申し訳ありません」

 肩を落として戻って行くおばさんに少し同情しながらも、田辺は再びノートに眼を戻した。

 いつの間にか随分と時間が経っていた。おばさん達の姿も消え、休憩室にいるのは田辺一人だった。

 ふいに、田辺の耳元で声がした。

「田辺さんって、勉強熱心なんだね」

 びくっとして顔を上げると、美鶴が田辺の肩越しにノートを覗き込んでいた。

「……美鶴さん、いつからそこにいたの?全然気がつかなかったよ」

「あ、ごめんね。こっそり近づいたから。あんまり真剣な顔してるから、何見てるんだろうって思って」

 田辺の動揺をまったく気にせず、美鶴がじっとノートを見つめた。

「ねえ、このノートって田辺さんが自分で作ったの?」

「ああ、そうだよ」

「ちょっと見せて」

 田辺の手からノートを取り上げた美鶴が、ぱらぱらとページをめくった。

「すっごいね、商品情報がびっしり書いてある。これってかなり時間掛かったんじゃないの?」

「そりゃ掛かったよ。ここ最近、空いてる時間はずっとこのノートに掛かりっきりだったからね」

 ノートをめくりながら、美鶴が極めて冷静に答えた。

「ふーん、田辺さんって意外とマメなんだ。もっとぼーっとしてると思ってた。ちょっと見直しちゃった」

「……あ、そう。そりゃどうも」

 冷たい美鶴の言葉に、田辺は少し寂しそうな表情を浮かべた。

「で、美鶴さんは何しに来たの?俺の邪魔しに来たわけ?」

「まっさかー。悪いけど私、そんなに暇じゃないのよね」

 ノートを机に戻した美鶴が、ポケットに突っ込んでいた二つの缶コーヒーのうち、一つを田辺の横に置いた。

「田辺さん、これおごるから少し時間もらってもいいかな?話があるんだ」

「いいよ。話くらい、おごってもらわなくても聞くから」

 少し腰を浮かして、田辺はポケットの小銭を探った。

「あ、お金返してくれなくていいから。財布の中が一〇円玉だらけになっちゃってかえって困る」

 あっさりと返金を拒否された田辺は、少し空しい気分で腰を下ろした。

「……あ、そう。で、話って?」

「うん、あのね。田辺さんって、彼女とかいるの?」

 缶を開けながら、田辺は美鶴に眼を向けた。

「何でそんな事訊くんだよ。もしかして美鶴さん、俺に気があるの?」

 その言葉を聞いた美鶴が、たっぷり五秒は田辺の顔を見つめた。

 少ししてから気を取り直したらしい美鶴が、さっきよりも更に冷静な声で尋ねた。

「……あるように見えるの?」

「いや、全然。言ってみただけだよ」

 さらっと答えてから、田辺はコーヒーを飲んだ。

「でも、だったらどうして?」

 美鶴が小さくため息をつきながら頬杖をついた。

「にぶいなぁ、田辺さん。普通ね、女の子がこういう事言ってきたら、可能性は二つっきりでしょ。本人が好きで訊いてるか、友達の代わりに訊いてあげてるか」

「ああ、なるほどねぇ……」

 美鶴から眼を逸らしながら、田辺は頭をかいた。

「要するに、社長の代わりに訊いていると。こういう事か」

「その通り!で、どうなの?彼女いるの?」

 身を乗り出してきた美鶴を気にかけず、田辺はノートに眼を戻した。

「今はいない。で、それはもう、社長も知ってるよ」

 田辺の手からノートを取り上げながら、美鶴が驚いた声を出した。

「え、何で雪乃が知ってるの?」

 取り上げられたノートに眼を向けながら、田辺は憮然とした表情で答えた。

「この前、契約取れたお祝いに二人で飲みに行ったんだよ。その時にちょっと、そういう話が出たから」

「へー、そうなんだぁ。二人で飲みにねぇ。ふむふむ、雪乃ったら意外とやるじゃない」

 感心したように頷いてから、美鶴が田辺の顔を覗き込んだ。

「……で、田辺さん。二人の関係はどの辺まで進んでるわけ?」

 にやにやとしている美鶴をしばらく見つめてから、田辺は静かに答えた。

「そんなんじゃないからね、美鶴さん。ただ飲みに行ったってだけだから」

「えー、でもさぁ。手を握っちゃったりとかして、『社長、ちょっと休憩して行きませんか?』なぁんて言っちゃって、『駄目よ、田辺君』『いいじゃないか、雪乃』。なぁんて事になったりしなかったの?」

「なったりしないよ!」

 田辺は思わず、身を乗り出してきた美鶴の額をぺしっと叩いた。

「美鶴さんね、若いくせに考えが古いよ。今時『ちょっと休憩……』なんて、恥ずかしくて俺には言えないよ」

 額を押さえた美鶴が、ふてくされた顔を見せた。

「えー、じゃあ何?せっかく二人で飲みに行ったのに、あっさり『じゃあね』って別れたの?」

「そうだよ、それが普通だろ。美鶴さんだって男と二人で飲みに行ったからって、すぐにそういう風になるわけじゃないだろ?」

「当たり前でしょ!」

 ちょっと赤くなりながら、美鶴が声を荒げた。

「でも、二人の場合は別でしょ。だって、女の方が男に惚れてるんだもん。ねえ、田辺さん。『据え膳食わぬは男の恥』って言葉知ってる?それとも、よっぽど雪乃が好みじゃない?」

「……美鶴さん、あのねぇ」

 困りきった表情で、田辺はぼりぼりと頭をかいた。

「俺だって、社長は可愛いと思ってるよ。だけど今のところ、好きだって気持ちにはならないんだよ」

「でも、私の友達はみんな、どちらかが好きって気持ち示したらくっついちゃうよ」

 美鶴の言葉に、田辺は真剣な表情を浮かべた。

「美鶴さん達はまだ若いからそれでもいい。でも、俺くらいの歳になるとそんなに単純に進まないんだよ。好きになる前に、いろんな事を考えて気持ちを押さえる事だってある。それが大人ってもんなんだよ」

「……ふーん。大人、ねぇ」

 じっと田辺を見つめていた美鶴が、眼を逸らしてから立ち上がった。

「あのさぁ、人の事だからどうでもいいけど、一つだけ忠告しておくね」

「ほお、忠告ね。何でしょうか、美鶴さん」

 からかうように尋ねた田辺に、美鶴が表情を変えないままで答えた。

「そうやって大人ぶって余裕かましてると、そのうち横から誰かに雪乃を奪われちゃうよ。あの子って、結構もてるんだからね」

 そのまま返事を待たずに歩き出した美鶴が、田辺の飲みかけの缶コーヒーを掴んだ。

「あ、美鶴さん。それ、まだ飲みかけなんだけど……」

「気に食わない答えを聞いて、美鶴ちゃんはご機嫌を損ねました。だからこれは没収します。じゃあね、田辺さん。せいぜいお勉強、頑張って下さい」

 背中を向けたまま、ひらひらと手を振って歩き去る美鶴を、田辺はぼんやりと見送った。

 美鶴を見送ったあとも、田辺はかなりの時間をノートに費やしていた。 

 帰り支度をするために倉庫の建物を出た田辺は、灯りがついたままの事務所に気がついた。ドアを開けても誰もいない。田辺は、社長室に歩み寄って軽くノックをした。

「社長、いらっしゃるんですか?」

「あれ、田辺君?」

 雪乃の声がして、社長室のドアが開いた。

「どうしたの、田辺君。こんな遅い時間まで残業?」

「いや、残業じゃなく勉強です。休憩室でこれを見てたんですよ」

 田辺の手にあるノートを見て、雪乃が笑顔を浮かべた。

「あ、これが噂の『田辺ノート』なんだぁ」

 田辺は怪訝な表情を浮かべた。

「何ですか、その田辺ノートって?」

「倉庫のみんなはそう呼んでるみたいよ。ねえ、ちょっと見せてもらってもいい?」

「ええ、いいですよ」

 田辺からノートを受け取った雪乃が、大切なものを扱うようにそっとページを開いた。

しばらくぱらぱらとノートを見ていた雪乃が、真剣な顔で田辺を見上げた。

「ねえ、田辺君。このノート、一日だけ貸してくれない?コピー取りたいの」

「え、コピーですか?」

 雪乃の言葉に、田辺は驚いた表情を浮かべた。

「やめて下さいよ。そんなりっぱなものじゃないんですから」

「ううん、すごくまとまってると思う。それに、私じゃ全然気が付かないような事まで書いてあるんだもん。お願い、私もこれ見て勉強したい」

「いや、でもコピーっていうのは……。走り書きみたいなものだし」

 すがるように自分を見上げる雪乃から眼を逸らして、田辺は困ったように呟いた。

 雪乃を前にしてしばらく考えていた田辺は、やがて頭をかきながら眼を戻した。

「じゃあ、こうしましょう。このノートは、事務所の机に置いておきます。いつでも必要な時に見て下さい。で、社長もいろいろ気が付いた事を書いて下さいよ」

 田辺の言葉に、雪乃が笑顔を見せた。

「それっていいアイデア!そしたら、二人分の知識がまとめられるもんね」

「そういう事です。期待してますからね、社長。俺を唸らせるような情報をばんばん書いて下さいよ」

 その言葉を聞いて、眉を寄せた雪乃が田辺をじっと見つめた。

「ねえ、それってもしかして、私にプレッシャーかけてる?」 

 雪乃の眼に動じる事なく、田辺はさらりと答えた。

「これくらいのプレッシャーがあった方が、励みになるでしょう?」

 少しふくれて見せながら、雪乃が小さく呟いた。

「……絶対負けないんだから。今に見てろぉ」

「お、それは楽しみですなぁ。頑張って下さいよ、社長」

 意地悪な言葉を掛けながらも、田辺は雪乃の表情を見て微笑を浮かべた。

 ソファに座った田辺にお茶を出しながら、雪乃がノートを見下ろした。

「田辺君って頭いいよね。こんなに内容の濃いノート作っちゃうんだもん。それにこの間取って来てくれた契約だって、田辺君の作戦勝ちだったわけだし」

 田辺は軽く頭を下げながらお茶を受け取った。

「そんな事ないですよ。俺なんて全然、頭使わない人生送ってますから」

「でも、田辺君の出身大学って国立でしょ。頭よくなきゃ行けないよ」

 お茶をすすりながら、田辺は少し笑った。

「ああ、あの大学に受かったのは、ほとんど奇跡なんです。高校の担任に『志望校を変えろ』って毎日のように言われてましたから」

「そうなんだぁ。でも、ちゃんと受かったんだもん。頭いいんだよ」

 田辺の笑顔を見て自分も微笑んだ雪乃が、思い出したように言葉を続けた。

「あ、そうだ。一度訊いてみたかったんだけど、田辺君ってどうして前の会社に入ったの?」

 言い終わってから、雪乃が少し眼を泳がせた。

「あ、……あの、変な意味じゃなくってね。もっと安定した仕事、選べたんじゃないのかなって」

 口ごもる雪乃の言葉に、田辺はあっさりと頷いて見せた。

「ああ、確かに不思議に思うでしょうね。俺も最初から、あんなうさんくさい会社に入るつもりじゃなかったんですよ。ただちょっと、就職活動に失敗しちゃいましてね」

「失敗って?」

 首を傾げた雪乃を見て、田辺はなにやら少し寂しげに笑った。

「実は俺、上場企業の最終面接まで通ってたんですよ。ほとんど入社間違いなしだろうって、就職担当の教授にも太鼓判押されてたんですよね」

 雪乃が驚いたように田辺を見つめた。

「えー、そうなの?なのに、どうして落ちちゃったの?」

「それがですね、空しい思い出なんですが」

 田辺は、照れくさそうな、情けないような、複雑な表情を浮かべた。

「一次から三次面接までは、東京の支店が会場だったんですね。だけど、最終面接は大阪の本社だったんです」

 雪乃がこっくりと頷いて見せた。

「ああ、そういうのって、よく聞くよね」

「ええ。それでですね、いきなり話は飛ぶんですが、俺には一つ重大な弱点があるんです。それをすっかり忘れていたんですよ」

「……弱点」

 呟いた雪乃が、興味深そうな眼で田辺を見つめた。

「それって、なんなの?」

 小さくため息をついた田辺は、天井を見上げながらしみじみと答えた。

「俺ね、ものすごい方向オンチなんですよ」

「……え?」

 怪訝な顔をしている雪乃に、田辺は説明を始めた。

「ですからね、大阪の街で思いっきり迷っちゃったんです。それはもう、一時間や二時間じゃ取り返しがつかないほど完璧に。それで、面接に遅れてしまって就職出来なくなったんです」

「……はあ、なるほど。それは気の毒ねぇ」

 なんとも不思議な表情で、雪乃が相槌を打った。その表情に気がつかず、田辺は言葉を続けた。

「それからの人生、俺にとって地図は必需品になりました。だってね、下手したらニ〜三回歩いた道ですら間違ったりするんですから。まったく、普通じゃないですよね」

 苦い笑いを浮かべながら、田辺は雪乃に眼を向けた。

「だからね、社長。俺の頭がいいなんて、そんな事はないんですよ」

 ため息をつきながら、田辺は言葉を切った。

 ふと、それまで黙って聞いていた雪乃が、顔を伏せて呟いた。

「ねえ、田辺君……」

「はい、何ですか?」

「あのね、私、すっごく気の毒だと思ってるんだよ。本当に思ってるんだけど、でも。……笑っちゃってもいいかなぁ?」

「いいですよ、もう過去の事ですから。好きなだけ笑い飛ばして下さい」

「ありが……。あはははははははははは!」

 田辺の了解を合図に、雪乃が腹を抱えて笑い出した。しばらくの間ひっくり返って笑い続けた雪乃が、やがて体を起こしながら苦しそうに言葉を発した。

「……方向オンチで、……面接駄目だったなんて……、そんな事が……、本当に……、あるんだねー」

 息を切らして涙目にまでなっている雪乃を、田辺は複雑な表情で見つめた。

「……確かにいいとは言いましたけど。それにしても思いっきり笑ってくれましたね、社長」

「あ、ごめんね。でも、なんかすっごく田辺君らしいなぁって思っちゃって」

 田辺の表情を見て、雪乃が慌てた様子で涙を拭いた。

「だってうちに送ってきた履歴書の志望動機だって、とんでもなかったじゃない」

「ああ、あれねぇ」

 思い出したように、田辺は再び大きくため息をついた。

「そうなんですよねぇ。俺って人生の重要な分岐点で、いっつも駄目な方にばかり行っちゃうんです。こんなんじゃ、自分でも将来が心配で家庭が持てないですよ」

「どうして?気にする事ないじゃない。ちょっとくらい波乱万丈な方が、人生は楽しいと思うけど」

「そうですかねぇ」

 背もたれに寄りかかりながら少し投げやりに答えた田辺に、雪乃が真面目な顔を向けた。

「うん、私はそう思う。それに、人生の分岐点で間違う事がない完璧な人なんてつまんないよ。それよりも田辺君みたいに、どんな道を選んでも一生懸命歩いて行く人の方が」

 言葉を切った雪乃が、一瞬迷った様子を見せた。

 やがて少しためらいながら、雪乃が小さな声で呟いた。

「……私は、好き」

 そのまま俯いた雪乃を、田辺はしばらくの間黙って見つめていた。

 ふと田辺は、片手を雪乃の頭の上に差し出した。それに気がつかず、俯いたままでいる雪乃の真っ赤な顔を見て、田辺の手がぴたりと止まった。

「……ありがとうございます」

 上げていた手を下ろしてから、田辺は小さく頭を下げた。

 まだ少し赤い顔をした雪乃が、笑顔を作って立ち上がった。

「……さて、そろそろ帰ろうか、田辺君」

「ああ、そうしましょう。いやぁ、すっかり遅くなっちゃいましたね」

 雪乃の顔を見ないようにしながら、田辺も立ち上がって鞄を取り上げた。

 事務所を出てすぐの交差点で、二人は立ち止まった。

 ふいに、雪乃が真面目な顔で田辺を見上げた。

「ねえ、田辺君。この道、どっちに曲がるか分かる?」

「……社長、それって結構、意地悪な質問だと思いますけど」

 田辺の恨めしげな表情を見て、雪乃がいたずらっぽく笑った。

「えへへ、ごめんね。なんだか急にからかってみたくなっちゃったの」

 青になった交差点を先に歩き出した雪乃の背中を、田辺は複雑な顔で見送っていた。

やがて小さく微笑んだ田辺は、大きく伸びをしながら雪乃のあとに続いた。

 



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