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三、

 一週間後の放課後。

 近藤に呼ばれていた沙知と香苗は、用事を済ませて職員室を出た。

 廊下を歩きながら、沙知はため息をついた。

「やれやれ。二年になると途端に忙しくなるんだね。自分達の試合の事とか、後輩の世話とか、考える事がたくさん」

 香苗が、うんざりした顔をしている沙知に目を向けた。

「たぶん、毎年の二年が同じ愚痴言ってるんだろうね」

「そうだね。で、きっとそういう不心得な者は、毎年新部長に怒られてるんだよ。ね、香苗」

「私、まだ部長じゃないんだけど」

 少し笑いながら香苗が答えた。

「そう言えば、新も職員室にいたね。あいつこそ、絶対部長やらされそう」

「そうだね。でも、そうなったら少しは私の事ほっといてくれるかも」

 香苗が、沙知に笑いを含んだ目を向けた。

「そういう余裕溢れるセリフ、由紀が聞いたら怒り狂うよ」

「……違うってば。別に余裕とかそんなんじゃないんだからね」

 反論しながら教室のドアを開けた沙知は、中の様子を見てそのまま足を止めた。

 机と椅子が大きく乱れているその真中で、神谷と一樹が睨み合っていた。沙知の横をすり抜けた香苗が、一樹の後ろで青ざめている茜を見つけて駆け寄った。

 厳しい顔で神谷を睨みつけていた一樹が、低く声を出した。

「神谷、おまえの茜に対する態度はちょっと異常だぞ。肩がぶつかったくらいでそんなにきつい事言う必要ないだろ。まして相手は女子だ。おまえ、男として恥ずかしくないのか」

 まったく意に返さないといった表情で、神谷が一樹の問いに答えた。

「男だとか女だとか、そんな事は関係ない。俺は、俺にとって敵だと思う奴をつぶす。それだけだ」

「つぶすって……」

 神谷のふてぶてしい態度が理解出来ない様子で、一樹はゆっくりと首を振った。

「おまえ達二人の間に何があったかは知らないけどな、いくらなんでももっとましな接し方があるだろ。おまえには、優しさとかそういう感情がないのか?」

「おまえがそう思うんなら、ないのかも知れないな。いいから、そこをどけ」

「どけないなぁ。茜に用があるんなら力ずくでやってみろよ」

 凄んで見せる一樹を見て、神谷が鼻で笑った。

「悪いが俺は、図体がでかいだけのおまえに負けるほど弱くはないんだよ」

 一樹に向かって歩み寄る神谷を見て、沙知は思わず大きく足を踏み出した。

「神谷、やめて!」

 一樹との間に割って入った沙知を見て、神谷が戸惑ったように足を止めた。

 少し体を震わせながら、それでも沙知はまっすぐに神谷を見つめた。

「神谷にだって、優しいとこあるよ」

「……何言ってんだよ」

「私、知ってるもん。神谷にだって、ちゃんと優しいとこあるもん」

 必死な顔で自分を見つめる沙知の言葉を遮るように、神谷が大きな声を出した。

「そんな事はどうでもいいんだよ。そこをどけ。ケガするぞ」

「そうだよ。沙知、どいてろって」

 後ろから肩をつかんだ一樹の手を振り払って、沙知は大きく首を振った。

「やだ!喧嘩なんてしないって二人が言うまで、絶対どかない!」

 沙知の声が響いた教室に、新が現れた。その場の異常な状況に目を走らせた新が、神谷に顔を向けた。

「……何があったか説明してくれないか、神谷」

「新、おまえなぁ」

 肩越しに、神谷が新に目を向けた。

「こいつをしっかり見張ってろって言っただろう。危なっかしくて見てられねぇんだよ」

 神谷に示されて、新が沙知に声を掛けた。

「沙知、どうした?」

 沙知は、泣き出しそうな目で新を睨んだ。

「新の馬鹿!もっと、早く来てほしかったのに」

「いきなり馬鹿って。そりゃないんじゃないの?」

「だって肝心な時にいないんだもん!すごく……、恐かったんだからね」

「いいじゃねぇか、こうして危機一髪で間に合ったんだから」

「危機一髪過ぎるの!もうちょっと時間に余裕を見て助けに来てよ」

 安心しきったように話をしている沙知を、神谷がしばらくの間見つめていた。やがてふうっと息を吐き出すと、気が抜けた様子で頭をかいた。

「……俺、帰るわ。あほらしくてやってられん」

 傍らに投げ出してあった鞄を取り上げながら、神谷が沙知に目を向けた。

「俺が優しい人間でよかったな。本当なら、今ごろ張り飛ばされてるところだぞ」

 負けずに、沙知は神谷を睨みつけた。

「その優しさ、私意外にも向けてほしいんだけど」

 沙知の厳しい目を見て、神谷がふと小さく笑った。

「……じゃあな」

 沙知の言葉に答える事なく、神谷は教室を出て行った。



 一樹から話を聞いた新が、深いため息をついた。

「困ったもんだな、あいつは」

 香苗が眉を寄せて頷いた。

「本当、いい加減にしてほしいよね、あの凶暴さ」

 みんなの様子を見ながら、沙知は恐る恐る口を挟んだ。

「でもね、いいところもあるんだよ。……ちょびっとだけだけど」

 沙知の言葉に、一樹が首を振った。

「例えどんなにいいところがあったとしても、毎日あんな態度でいるのは許せない」

 厳しい顔をして、一樹が言葉を続けた。

「本当に、あいつはなんであんな事ばかりするんだろうな。毎日茜を傷つけて」

「……それは、相手が私だから、なの」

 沙知は、小さく呟いた茜に目を向けた。

「さっき、神谷が言ってたでしょ。『敵になった人間はつぶす』って。私は、神谷にとって敵だから」

 茜の言葉を聞いて、ふいに沙知の胸に一つの疑問が浮かんだ。

「……ねえ、茜はどうしてあんなに神谷に嫌がらせされてるの?二人の間に、何があったの?」

「やめろ、沙知。なんでもかんでも軽はずみに訊くんじゃない」

 新が厳しい目を向けたのを見て、茜が慌てたように口を挟んだ。

「新、いいから。沙知には悪気ないんだし、私は気にしないから」

「悪気がなければいいって問題じゃない」

 茜の言葉に、新が首を振ってみせた。

「沙知、誰にだって触れられたくない事が一つくらいあるだろ。確信犯ではないにしろ、おまえが今した事は神谷のしてる事と同じだ」

 香苗が新にするどい視線を向けた。

「ちょっと!それはいくらなんでも言い過ぎ。神谷と一緒にするなんてひど過ぎる」

 香苗の言葉を聞いて口をつぐんだ新が、沙知に目を戻した。

 青い顔をして俯いていた沙知が、無言で鞄をつかんで教室を走り出た。反射的に立ち上がった新を、香苗が厳しい声で引き止めた。

「私が行く。あんたは来ないで」

 鞄をつかんで歩き出した香苗が、ドアを開いたところで振り返った。

「新、私はあんたの事、結構尊敬してる。でも今のあんたは話にならない。何考えてるのか知らないけど、沙知に対してあんな事言うなんて全然あんたらしくないよ」

 そのまま、新の答えを待たずに香苗が走り去った。

 香苗の背中を見送った新は、ゆっくりと椅子に背を戻した。

 小さく息を吐き出しながら、一樹が頭をかいた。

「どうした、新。あんな、心にもない事」

 無言のままでいる新を、茜が見つめた。

「新、ごめんね。私の事を訊かれて動揺しちゃったんだよね。しかも、それを訊いたのが沙知だったから余計に」

「……そんなんじゃねぇよ」

「でも、新は沙知に知られたくないでしょ、あの事。だから」

「違うって言ってるだろ!」

 きつい顔で茜を睨みつけた後、新は我に返ったように目を緩め、俯いた。

「……悪い、俺先に帰るわ。一樹、茜の事頼むな」

 背中を向けて出て行った新を見送ってから、一樹が茜に目を向けた。

「おまえ達の間には相当こじれた問題があるんだな。俺、新のあんなとこ初めて見たぞ」

 新の出て行ったドアを見つめていた茜が、大きく息を吐き出した。やがて、辛そうな表情で一樹を見つめた。

「聞いてもらってもいいかな。新と、神谷と、……私の事。ずっと、誰かに聞いてほしかったの」

「……俺でよかったら。だけど俺、男女の関係とかってのにあんまり頭利かないから、分かりやすく頼むわ」

 椅子ごと茜に体を向けながら、一樹が答えた。

 そろそろ暗くなり始めた教室から二人の影が消えるまで、長い時間が掛かった。



 学校からずいぶんと離れたところでようやく追いついた香苗が、沙知の腕をつかんだ。

「ちょっと待ってよ、沙知。あんた足速過ぎる。ていうか、リーチ違い過ぎ」

 腕を取られて立ち止まった沙知は、背中を向けたまま答えた。

「……ごめん、香苗。私、今日は一人で帰りたい気分なの」

 沙知の言葉を聞いて、香苗が腕を放した。

「あ、そう。だったらこのまま一人で泣きながら帰ったら?」

「どうして私が泣くのよ」

 振り返った沙知の顔を見て香苗が呟いた。

「……あれ?本当に泣いてない」

「余りにも腹が立って泣けないの!なんなの新の奴!そりゃ、デリカシーのない私がいけないのは分かるよ。でもあんな言い方しなくたっていいじゃない。そうでしょ?」

 ずいっと迫ってきた沙知を見て、香苗が困ったように目を逸らした。

「ま……、まあまあ落ち着いて。こんなところで立ち話もなんだしね、ほら、そこの公園のベンチにでも座ろうよ。ジュースおごっちゃうからさ」

 興奮冷めやらぬ表情の沙知をなんとかベンチに座らせて、香苗が自販機に向かって走って行った。自分のために走り回ってくれている香苗の背中を見ているうちに、沙知は自分の気持ちが段々と静かになって行くのを感じた。

少し息を切らした香苗が、ジュースを二本手にして沙知の前に立った。

「ほら、これ飲んで。まずは落ち着きなさいね」

「……うん」

 素直に頷いて、沙知はジュースを手にした。

「あの、香苗、ありがとね。ジュースと、後を追っかけてくれた事」

「あら、そんな可愛らしいセリフが出てくるなんて随分と落ち着いてきたじゃない」

 からかうような視線を投げて、香苗が少し笑った。

「いいよ。あの場面で私があんたを追いかけるのなんて、当然の事だもん。それに、私が来なかったら新があんたを追いかけ始めて、話がもっとややこしくなってただろうし」

「……新が追いかけてくるなんて、そんな事ないよ。だってあいつ私の事、神谷と同じだって思ってるんだし」

 ぷしっとジュースを開けながら、香苗が沙知に顔を向けた。

「ねえ、沙知。あんた、新が本心からあんな事言ってるって思ってるの?」

「……思ってるよ」

「本当に、本気で思ってるの?」

「思ってるってば!」

「本当に、本気で、心の底からそう思ってるの?」

 自分を覗き込む香苗から顔を背け、しばらく目を泳がせていた沙知は、やがて小さく呟いた。

「……思ってないけど」

「よろしい。本当に本気でそんな事思ってたら、あんた救いようがないよ」

「でも、でもね!」

 缶を握りしめながら、沙知は体ごと香苗に目を向けた。

「あんな風に言ってほしくなかった。本心じゃないにしろ、茜をかばいたかったにしろ、新にあんな事言われたら私、……つらいよ」

 最後の言葉を消え入りそうな声で呟いた沙知を見て、香苗が頷いた。

「うん……。私も最初はひど過ぎるって思ったよ。でもね、あんたを追いかけながら、少し考えてみたんだ、あいつの事」

 ジュースを一口飲んでから、香苗が言葉を続けた。

「新は、すごくしっかりしてるよね。頭も切れるし、いろんな事考えて行動してるのがよく分かる。あいつ見てると時々、絶対かなわないなぁって思う。でもね、沙知」

 呼びかけられて顔を上げた沙知の目を、香苗が受け止めた。

「新は、私達と同じ分だけしか生きてないんだよ。いくら大人びてたって、頭よくったって、それは私達に比べてってだけの事なんだよね。あいつにだって、どうしたらいいか分からない事がたくさんあるんだよ。思い通りにならない事だって、自分の感情をコントロール出来ない事だって山ほどあるはずなんだよ。それを、ちゃんと分かってあげなきゃ」

 言葉を切った香苗から目を逸らし、沙知はしばらく空を見上げていた。

 やがて沙知は、空を見上げたまま小さく呟いた。

「香苗。私って、新に甘え過ぎてたのかな」

 香苗が、黙ったままで沙知の言葉の続きを待った。

「いつも新が色々言ってくれるの、結構嬉しかったりするのに。でもなんか照れくさくって反抗してみたり、文句言ったりして。……私、もしかしてあいつの事、傷つけてたりしたのかな?」

 香苗が、沙知と同じ様に空を見上げながら答えた。

「うーん、それはどうかな。新って、沙知のそういう反応を見て楽しんでるところがかなりあるし。それにそのくらいの事で傷つくタイプにも見えないけど」

「そう、……かな?だったらいいんだけど」

 難しい顔をしている沙知を見ながら、香苗が少し困ったように頭をかいた。

「あのね、沙知。これってものすごーく微妙な問題だと思うんだけど。……あんたがさっき教室を飛び出した理由は、新が言った『神谷と同じ』ってセリフの他に、茜に対する焼きもちってのもあるんじゃないの?」

「……自分でも、よく分からない」

 沙知はゆっくりと首を振った。

「でもね、なんか……。新が茜をかばうたびに、少し胸が痛くなる。茜が、新の事を見上げてる時も。それって焼きもちなのかな?」

 沙知のすがりつくような視線に、香苗が少し目を泳がせた。

「あ、……ごめん。そういう気持ちに関しては、私自身まだ分からない部分が物凄くあるのよね。お役に立てるような事、言ってあげられそうにないかも」

「そんなぁ、ここまで来て見捨てないで。お願い、香苗。助けてよー」

「いやぁ、困っちゃったなぁ、これは。どうしよっかなぁ」

 逃げ腰になりながら沙知から視線を外した香苗がふと、公園の入り口に目を止めた。

「あ、新だ」

「え、うそ!」

 香苗の小さな体の後ろに隠れようとしながら、沙知は香苗の視線を追った。

 俯き加減の新が、公園の入り口を足早に歩いて来る姿が見えた。

 香苗が背中越しに沙知に声を掛けた。

「ちょっと、何隠れてるの。話し合ってきなさい」

「え、でも……」

「でもじゃないの。この公園を通ってるって事は、新はあんたの家に向かってるって事でしょ。あんたから折れるべきだよ。それに、早いとこ仲直りしないと、どんどん話し掛けづらくなっちゃうよ」

「……そっか、それはそうかも」

 決意を顔に滲ませて、沙知は立ち上がった。

「分かった。行って来る」

 香苗に見守られながら、沙知は新に向かって歩き出した。

 公園の中ほどまで来た新が、つかつかと歩み寄る沙知に気がついた。その沙知の表情を見た新がぴたりと足を止め、何故か後ずさりを始めた。

 そんな新の態度を気に止めず、沙知は新の前で立ち止まった。

「あの、新」

「あ、……はい」

「さっきは突然逃げ出したりしてごめんね。新が言ってる事が正しいってちゃんと自分でも分かってたのに、なんだか急にかっとなっちゃって」

「いや、さっきは俺もかなり悪かったから。ひどい事言っちゃったし」

 新の言葉に、沙知は首を振った。

「ううん、私が悪いの。それに、今日だけじゃない。私、いつもそんな風に怒って見せたり、迷惑がって見せたりして、新に素直な態度見せた事、一度もなかった。本当は、ちゃんと感謝してるのに」

 非常に居心地の悪そうな表情を浮かべている新を、沙知はまっすぐに見つめた。

「あのね、新。私、前から思ってたんだけど本当は」

「あのな、沙知!」

 新が沙知の言葉を遮るように声を上げた。

「あのな、俺も、前から思ってたんだけど」

「……うん」

「えっと、……おまえな、少し牛乳とか乳製品食べるのやめた方がいいぞ」

「…………はい?」

 怪訝な顔で首を傾げた沙知に向かって、新が畳み掛けるように言葉を続けた。

「おまえも分かってるだろうけど、俺達は今第二次成長期だ。これ以上カルシウム取ってたらますます背が伸びちまうだろ。おまえ、俺の身長とか超えちゃったらちょっとつらくないか、年頃の女として。な?」

 口早に言い切った新の顔をしばらく見つめていた沙知は、やがて目を逸らして俯いた。

「……あんたが前から思っていたってのは、そんな事なんだ」

「あ、いや。……それだけじゃないけどな」

「それだけじゃないけど、そういう事も思ってたんだ」

「思ってる、時もあったかなぁ、って気がするような、しないような……」

「分かった。あんたの気持ちはよーく分かった」

 きりっと顔を上げて、沙知は新をするどく見据えた。

「私の育ち方まで心配してくれてどうもありがとう。でもね、もうこれからはそんな事考えなくてもいいから。ていうか、私の事を考えるのはやめて。話し掛けるのもやめて。私もそうするから。じゃあ、さよなら!」

 きっぱり言い切ると、沙知は新に背を向けて大またで歩き出した。その背中に向かって新が恐る恐る声を掛けた。

「あ、あの、……沙知?」

 新の声を聞いて、沙知は勢いよく振り返った。

「話し掛けるなー!」

厳しい顔で怒鳴った沙知は再び新に背を向け、肩を怒らせつつ公園を後にした。

 引き止める事も言い訳する事も出来なかった新は、しばらくの間ぼんやりと立ち尽くしていた。

ふいに不自然な咳払いが響き、ぎくりとしながら振り返った新はベンチに座っている香苗を見て、絶望的な顔をした。

「……なんでいるかなぁ、そこに」

「ていうかさ、一言言ってもいいかな」

 立ち上がって歩いて来た香苗が、新の顔を見上げてばっさりと切り捨てた。

「……ガキ!」

「あ、きつっ!ものすごくぐさっと来た、そのセリフ」

 胸を押さえて香苗から目を逸らした新が、しばらくしてから気まずそうな顔で呟いた。

「……俺、さぁ。相手に向かって来られると駄目なタイプなんだよな。こう、逃げ場がないっつうか」

「なるほど。だからいっつも自分から仕掛けて行ってると、こういう事ね」

「……はい、そういう事なんです」

「別に私はね、あんたがどういうタイプであっても、そんな事はどうでもいいんだけど」

 軽くため息をついてから、香苗がぶつぶつと文句を言い出した。

「本当にどうでもいいんだけどね。でもだけど、それにしたってちょっとこの展開はあんまりだと思うのよね。沙知をけしかけるの結構大変だったのに、一体何だっていうの、あのわけ分からない二人の会話は。本当にまったく、いい加減やってらんないっつうの」

「申し訳ない……。香苗さんにはいつもいつもお世話になってばかりで」

「本当に、結構お世話してると思うのよね、私は。でも今のでちょっとクールダウン。もうこの際、君達の関係からきっぱりと手を引こうかしら」

「いや、それは困る!頼む、香苗。見捨てないでくれ」

 新が慌てふためきながら、うんざり顔の香苗に何度も頭を下げ始めた。

そろそろ暗くなり始めた公園から二人の影が消えるまで、長い時間が掛かった。


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