一 樹 く ん の お 正 月


一、


 一月一日の朝。

 一樹(かずき)は、自室のベッドで泥のように眠っていた。

 そのまったりとした空気が突然破られ、ドアが激しく開けられた。

「くぉら、このうすら息子!いつまで寝てるつもりよ!」

 意識がないまま布団をかぶっている一樹の元に、どすどすと足音が近づいて来た。

「いい加減起きなさいっての!」

 迫力のある声が掛けられたと同時に、一樹の掛け布団が勢いよくはぎ取られた。

 つかんでいた布団を引っ張られてころころと床を転がった一樹は、ぼんやりと宙を見つめていた。

 そのまま固まっている一樹に向けて、更にするどい声が投げ掛けられた。

「まったくもう、あれだけ早く起きろって言ってあったのに!いつまでも子供でいられちゃ困るのよ。とっとと一人前の男になって、働き頭になってよね!」

「……ちょっと待て」

 ようやく覚醒し出した一樹は、ぽつりと呟いた。

「今日は何月何日だ?」

「何よ、まだ寝ぼけてるの?日本人なら元日くらい体で覚えなさいよ」

「元日……」

 呟いたと同時に、一樹の頭が正常に働き始めた。

「ったく、なんなんだよ、あんたは!」

 思わず立ち上がった一樹は、着物を着込んでいる母親に今年初めて目を向けた。

「正月くらい思う存分寝かせろっつうの!」

「何、悠長な事言ってんのよ、うすら息子!」

 母親が、負けずに目をきつくした。

「うちには盆も正月もないって何度言ったら覚えるの!」

「あほか!正月くらい休め!」

「馬鹿!この大馬鹿!あんたは本当に私の息子なの?」

 ばしっと一樹の頭を引っ叩いてから、母親が着物の胸元から薄手の電卓を取り出した。

「こんな大きな稼ぎ時を無駄にするなんて罰が当たるよ!お正月は縁起物を詰め込んだお重がばんばん出るんだから。今日なんて予約が二〇件以上入ってて、しかも正月コースを設定してあるから」

 真剣な表情で電卓を押していた母親が、出てきた数字を見て目を輝かせた。

「……ああ、素敵」

 その様子を見てなんだか逆らうのに疲れた一樹は、小さくため息をついた。

「……もういい、起きます。起きりゃいいんだろ」

 床に落ちた布団をつかんで立ち上がりながら、一樹は母親に顔を向けた。

「なあ、今何時?」

「午前五時」

「……はあ?」

 再び、一樹は固まった。

「冗談だろ?俺、昨日寝たの一二時過ぎてたぞ」

「五時間近く眠らせてやったんだから、ありがたく思いなさい」

 あっさりと答えてから、母親が背中を向けた。

「とりあえず、あんたは店の玄関先を履いといて。手抜きしたら朝ご飯抜くからね。終わったら報告に来るように」

 とっとと出て行こうとする母親に向かって、一樹は思わず歩み寄った。

「ちょっとちょっと、奥さん、ねえ!」

 一樹の呼びかけをすっぱりと無視し、母親がばたんとドアを閉めた。

 残された一樹は、絶望的なため息をつきながらベッドに座り込んだ。

「……ったく、たまんねぇなぁ。毎年毎年」

 一樹の家は、老舗の料亭である。

 割と名が通っており、何時間も掛けて来る客も多いらしい。

 三年前、一樹の母親がふいに思い立ち、元日の朝から正月料理をコースにして売り出した。

 これが見事に当たった。

 当日に帰っていく客が、来年分の予約をしていく事も少なくはない。

 その年から、一樹の元に平和な年末年始が訪れる事はなかった。

 昨夜も遅くまで、客室の隅から隅まで掃除をさせられていた。

 実は寝付いてからも一回起こされ、掃除のやり直しをさせられていた。

 しかし、意識がなかった一樹はその事を覚えていない。

 一樹はもう一度、体中の空気を全て吐き出す勢いでため息をついた。






 たけぼうきを持って、一樹は店の前の木戸を開けた。

 真冬特有の凛とした空気。その中でも元日の空気は、何故か特別に新鮮に感じる。

 一樹は、この空気が結構好きだった。だが今は、寝不足と疲れでなんだかとってもぼんやりと頭が曇っていた。

 まだ日も昇っていない暗い道に出た一樹は、一回大きく鼻をすすった。

「せめて『朝日が目に染みるぜ』とか言いたかったよ、俺は」

 寂しげに呟いてから、一樹は玄関先を掃きだした。

 客室から見える丹精した庭が、この料亭の売りのひとつだったりする。そのため、その庭を囲む木塀は決して狭くはない。

 なかなか終わりのない作業を続けながら、いつしか一樹は無心でほうきを使っていた。

 ふと気がつくと、一樹の前に人が立っていた。

 顔を上げると、コンビニの袋を下げた父親だった。

「よお、一樹。明けましておめでとう」

「……おめでとさんっす」

 ぼそっと呟いてから、一樹は疑問を投げ掛けた。

「で、親父さん。朝っぱらから何買ってきたの?」

「ん?ああ、食うか?」

 がさがさと袋をあさった父親は、一樹の前に湯気の立つ肉まんを差し出した。

「食う!」

 きっぱりと答えた一樹は、ほうきを投げ出して肉まんを受け取った。

 二人は、木塀に寄りかかって座り込んだ。

 二個目の肉まんに手をのばしながら、一樹がため息をついた。

「ったく、やってらんねぇよなぁ。お客さんは朝っからごちそう食べるっつうのに、俺達の朝飯が肉まんだなんてよ。せめてまかない食べらんないの?」

「従業員の皆さんはまかないを食べてるがな」

 一樹の前に暖かい日本茶のペットボトルを置きながら、父親が答えた。

「母さんは、従業員さんには優しいが身内には厳しい人だからな」

「んな事言ったってさぁ」

 喉につまらせた肉まんを、一樹は日本茶で流した。

「そもそも親父さんはこの店にノータッチだろ。ちゃんと会社員やってんだし。

だったら今日だって昼まで寝てる権利あるんじゃないの?」

「そういうわけにも行かんだろう」

 ペットボトルで手を温めながら、父親が笑顔を見せた。

「頑張ってる母さんをほっとけないからな」

 穏やかな父親の微笑みを見て、一樹はふと以前から聞きたい疑問をぶつけてみたくなった。

「なあ、親父さん」

「ん?」

「なんであの人と結婚しようと思ったの?あんな、気の強い人と」

 その言葉を聞いて、父親が一樹に目を向けた。

「おまえは、気の強い子は嫌いか?」

「え……」

 逆に質問されて口ごもった一樹の頭に、ふとクラスメートの香苗(かなえ)の姿が過ぎった。

「……いや。嫌いじゃ、ないけどさぁ」

「だろう」

 ふっと笑った父親が、お茶を一口飲んだ。

「気の強い女性は可愛いんだよ。俺もおまえも、そういうところに惹かれてるんだろうな」

「可愛い?あの人のどこが?」

 思わず大声で言ってしまった一樹に向かって、木戸方面から声が掛けられた。

「あ、ずるい!」

 眉をひそめた母親が、すたすたと近づいて来て二人の前にしゃがみ込んだ。

「自分達だけで食べるなんて!私だっておなか空かせてるのに」

「ああ、ごめんごめん」

 優しい笑顔を浮かべながら、父親が袋を持ち上げて見せた。

「母さんの大好きなこしあんのアンパンを買って来たよ。中でゆっくり食べなさい」

「あら嬉しい。あのアンパン食べるの、一年ぶりだわ」

 とたんに笑顔を浮かべて、母親が袋を受け取った。

 座り込んでいる一樹に背を向けて、二人は家に戻って行った。

 一旦木戸の中に入った母親が、ふいに顔を覗かして一樹に目を向けた。

「一樹。あと一〇分でここの掃除、終わらせるのよ。その後は庭を一通り掃いてね」

「……ちょっと、頼むよ。勘弁してくれってば」

 うんざりした表情を浮かべた一樹に向かって、母親が懐から出したものをひらひらとさせた。

「分かってるの、一樹。今の君の行動が、この中身の金額を決めてるのよ」

 母親の手にあるお年玉袋を見て、一樹は無言で立ち上がり、ほうきを使い始めた。

「よろしい。その調子で頑張りたまえ。んじゃあね」

 一人取り残された一樹は、小さく呟いた。

「……絶対可愛くない。どう考えても可愛くない」

 空は相変わらず暗いままで、未だに夜が明ける気配はなかった。






二、




 時刻は午後二時半になっていた。

 お昼のラッシュが終わり、店は少し落ち着きを取り戻していた。

 母親の目を盗んで、一樹は一本の電話を掛けた。

 その一五分後、玄関から懐かしい友人の声が聞こえて来た。

「すみません、一樹はいますか?」

「あら、新(しん)くん。明けましておめでとう」

「おめでとうございます」

 玄関を覗き込むと、新が母親と笑顔で話をしているところだった。

 一樹は、恐る恐る二人に近づいた。

「あら、そこにいたの」

 普段から礼儀正しい新の事を気に入っている母親が、機嫌のいい顔を一樹に向けた。

「あんた、新くんと出掛ける約束してたんだって?」

 さりげなく靴を履きながら、一樹は無言で何度も頷いた。その横で、新が母親に笑顔を向けた。

「神社に行こうって約束してたんですよ。俺達、今年部活で大きな大会に出るもので、ちょっと挨拶しに行こうかと」

「なるほどね。じゃあ、一樹。行って来ていいわよ」

「はい。では」

 短く答えて背中を向けた一樹の服を、母親がつかんで引き止めた。

「ただし!二時間したら絶対に帰って来るのよ。夕方のお客様が来るからね」

「二時間?たった?」

「文句言わない。行かせてもらえるだけでもありがたいと思いなさい」

 振り返った一樹に向けて、母親が迫力のある表情で近づいた。

「いい?五時になったら町内の放送で鐘が鳴るでしょう。その鐘がなる前に、必ず帰って来るのよ」

「鐘が鳴る前にって……。俺はシンデレラかい」

 ぼそっと呟いた一樹を、母親が鋭く睨みつけた。

「なんか言った?」

「いえ、何にも言ってませーん。では行ってきまーす」

 面倒な事にならないうちに、一樹はとっとと家を飛び出した。

 木戸を出てから、一樹は大きく伸びをした。

「やぁれやれ。やっと自由の身だ。ありがとな、新」

「泣きそうな声で電話されたら、来ないわけにもいかないだろう」

 答えながら、新が紙袋を差し出した。

「そこらにあるので握ってきた。食うか?」

 紙袋を覗き込むと、握りこぶし大の大きなおにぎりが二つ、並んでいた。

「おお、食う食う!さすが新。気がきくなぁ」

 包んである銀紙を取りながら、一樹は嬉しそうにおにぎりを見つめた。

「中身はなんだ?」

「いくらと数の子」

「お、すっげぇ。俺、元日に正月らしいもの食うの久しぶりだよ」

「毎年忙しいもんな、おまえんちは。正月コースは、この先毎年やるのか?」

「じゃないの。せっかく見つけた稼げるチャンスを逃す人じゃないだろう。あの人は」

「なるほど。商売人だからな、おばさんは」

 小さく笑いながら、新が頷いた。






 いつの間にか、二人は駅前に差し掛かっていた。

 ぺろっとおにぎりを食べ終えた一樹は、紙袋を近くのゴミ箱に投げ入れた。

「ところで、これからどこ行く?」

「ああ、悪い。俺、用があるから」

「ん?用ってなんだよ」

 新が答えるより先に、二人に向かって元気のいい声が掛けられた。

「新!こっちこっち」

 こぼれ落ちそうな笑顔で、新の彼女の沙知(さち)が手を振っていた。

 いつもよりお洒落をしている沙知を見て、一樹は思わず呟いた。

「こりゃ失礼。気がつきませんで」

「いえいえ。どう致しまして」

 答えた新が、駆け寄って来た沙知に笑顔を向けた。

「おす」

「おす!明けましておめでとう、新」

「おい、沙知。俺も横にいたりするんだけど」

 思わず口を挟んだ一樹を見て、沙知が驚いた表情を浮かべた。

「一樹!どうしてここにいるの?」

「そんな言い方しないでもいいだろう」

 一樹は、少し寂しげに答えた。

「邪魔して悪かったな。すぐに消えるから」

「ううん、そういう意味じゃなくって」

 背中を向けた一樹の服をつかんで、沙知が言葉を続けた。

「今日、香苗と会うんじゃないの?昨日電話で言ってたよ。確か、二時に会うんじゃなかったっけ?」

「……香苗?」

 呟いた一樹は、思わずその場に立ち尽くした。

 段々と顔色が消えていく一樹を見て、新が小さく呟いた。

「おまえって奴は……」

 沙知が、険しい表情を浮かべた。

「まさか、忘れてたんじゃないでしょうね?」

 一樹はぽつりと呟いた。

「……今、何時だ」

 新が腕時計に目を落とした。

「二時五五分だ。一樹、とりあえず走れ」

「分かった!じゃあな!」

 勢いよく二人に背を向けた一樹は、何故かいきなり足を止めた。

 その背中に向かって、新が声を掛けた。

「おい、どうした?」

 ゆっくりと振り返りながら、一樹は呟いた。

「……待ち合わせ場所、どこだっけ?」

 沙知が、思いっきり一樹の背中を叩いた。

「もう!最っっ低!」

「まあまあ」

 噛みつきそうな沙知を押さえて、新が一樹に冷静な目を向けた。

「落ち着いて考えろ。この駅周辺とかじゃないのか?」

「えっと、えっと……」

 青ざめた顔でぶつぶつと呟いている一樹を、眉をひそめた沙知が見上げた。

「しょうがないなぁ、もう。あの子、休みの日だけ携帯持ってるよね。掛けてみたら?」

「あ、なるほど!」

 一瞬目を輝かせた一樹は、再び表情を強張らせた。その様子を見て、沙知がため息をついた。

「はいはい。番号忘れたのね」

「……すみません」

 大きな体を縮めながら、一樹は公衆電話に向かう沙知の後に続いた。

 電話に向かった沙知が、少ししてから話し出した。

「あ、香苗?ああ、うん。私は新と会えてるんだけどね。うん、……実は」

 ちらりと、沙知が一樹に目を走らせた。

「今、何故かここに一樹がいたりするんだけど」

 一樹は、なんだか胃がしくしく言い出したような気がした。

「うん、なんかうっかりしちゃったみたいね。……うん、分かった。じゃあ替わるね」

 送話口を塞いで振り返った沙知が、一樹に受話器を差し出した。

「はい」

「……ども」

 大きく深呼吸をしてから、一樹は受話器に向かった。

「もしもし」

『……一樹』

 香苗の静かな声が聞こえて来た。

 いきなり怒鳴られるかと思っていた一樹にとっては、とても意外だった。

『今日の約束、忘れてたの?』

「あ、あの……」

 一樹の頭に、色々な言葉が浮かんできた。

 冬休みに入ってからずっと家の手伝いをしていた事。昨日も今日も朝から働いていた事。忙し過ぎて、なんだか頭がぼんやりとしていた事。

 しかし、そのどれも言い訳に過ぎないと自分でも分かっていた。 そして一樹は、香苗に対して言い訳をしたくなかった。

 だから、この時の一樹は一言、ぽつりと答える事しか出来なかった。

「……ごめん」

 電話の向こうの香苗が、一瞬言葉を詰まらせた。

『……私だけ、だったんだね。楽しみにしてたの』

 香苗の声が、自嘲気味に笑った。

『馬鹿みたいね、私』

 その声を聞くのがつらくなり、一樹は大きな声で受話器に向かった。

「香苗!すぐに行くから。今、どこにいるんだ?」

『教えてあげない』

 香苗がきっぱりと答えた。

『じゃあね』

「待て待て待て待て!頼む、俺を見捨てないでくれ。もう一度、もう一度だけチャンをくれ!」

 一樹は思わず、力いっぱい叫んでいた。

「……なんか、奥さんに逃げられた駄目亭主みたい」

 後ろで呟いた沙知が、新に額を叩かれていた。

『チャンス?』

 香苗が呟いた。

 一樹は必死で言葉を続けた。

「そうそう、チャンス!」

『……そうね』

 無言で考えている様子だった香苗が、しばらくしてから答えた。

『じゃあ、今から私が行く場所を当てて、そこに迎えに来て』

「え?」

 一樹は思わず呟いた。

「今からいく場所って……。おまえ、どこに行くつもりだ?」

『二人の、思い出の場所』

「……思い出の場所?」

『そう、そこに来て。五時まで待っててあげるから』

「あ、あの」

『あのね、一樹』

 香苗が、一樹の言葉を遮った。

『お願いだから、思い出の場所ってどこだ、とか訊かないでね』

「……はい」

『じゃ、沙知と新によろしく』

 ぷつり、と電話が切れた。

「……思い出の場所?」

 ツーツー言っている受話器を握り締めたまま、一樹はもう一度小さく呟いた。






 一樹の説明を聞いて、沙知が笑顔を浮かべた。

「良かったじゃない、チャンスもらえて。早く香苗のところに行ってあげて」

「……いや、あの」

 一樹は、困惑した顔を沙知に向けた。

「俺、あいつがどこに行ったか分からないんだけど」

「……嘘でしょ?」

 眉をひそめて、沙知が呟いた。

「しっかりしてよ。ちょっと考えてみれば分かるでしょ」

「いや、考えてはいるんだけど……」

 俯いた一樹に向かって、沙知がいらいらしたように足を踏み出した。

「あのねぇ!私が知ってる限り、二人は今日初めて出掛けるのよね?」

 沙知の言葉を聞いて、新が一樹に目を向けた。

「そうなのか?」

「ああ。ここ最近、お互い忙しくて出掛ける暇がなくてさぁ」

「……そうか」

 呟いて、新が口をつぐんだ。

 沙知が言葉を続けた。

「で、初めて出掛けるはずの今日、一樹が約束をすっぽかしたのよね?」

「……はい」

「ところで、今日二人はどこに行く予定だったの?」

「えっと、近所の神社」

「そう」

「ああ」

 そこで、沈黙が走った。

 しばらくしてから、沙知がぽつりと尋ねた。

「……で?」

「……はい?」

「香苗がどこにいるか、分かった?」

「……今、それが分かる話をしてたのか?」

「……なんだとぉ」

 呟いた沙知の顔が、みるみる真っ赤になっていった。

「この鈍感男!もうあんたなんて知らない!」

 一樹から目を離して、沙知が新にきりっとした顔を向けた。

「私、香苗のとこに行ってる。新、この人の事よろしくね」

「……やっぱり、そういうのは俺の役目なわけね」

 ぽりぽりと頭をかきながら、新が答えた。

 とっとと走り出しながら、沙知が一樹に厳しい目を向けた。

「いい、一樹。五時までに来なかったら、ぼっこぼこにしてやるからね!」

「……そんなぁ」

 沙知の背中を見つめながら、一樹は情けない顔で呟いた。

 ため息をつきながら、新が一樹の肩を叩いた。

「まあまあ、頑張って考えよう。まだ時間はある」

 一樹の肩の上で、新のしている腕時計がぴぴっと鳴った。

 時刻は、午後三時になったところだった。



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